冬の漬物
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六十年ほど前の昔々…
秋の終わり、冬間近を感じるようになると、
隣近所どこの家でも軒先きや塀などに、
真っ白に洗った大根がずらり並んで干されていました。
お母さん方がその冬中、
家族が食べる漬物の準備を始めるのです。
程良く干された大根はシワができ柔らかくなります。
それを沢山の塩や米ぬか等と一緒に一本づつ、
大きな樽の丸みに合わせて少し曲げながらどんどん敷き詰めて重ねていきます。
最後にふたと重い石を乗せて寒い小屋に置いておきます。
白菜漬けも毎年必ず作っていました。
大きい白菜を半分に切って水でジャブジャブ洗い、
少し日に干してから塩をもみこみ、
やはり大きな樽に漬け込んでいきます。
子供の私が知っているのはそこまででした。
その後、母が時々重い石を取り除けて塩味や水加減をみたり、
昆布や唐辛子などを入れたり、白い息を吐きながら
漬け上がるまで手間をかけていたことはあまり知りません。
他にもカブ漬けや、きゅうりの古漬けの粕漬、
ガックラ漬け、べったら漬けなどいろいろありました。
冬の間、美味しい漬物が白いご飯と共に
いつも食卓に上がっていました。
又、時々母が近所のおばさん達と「お茶と漬物」で
おしやべりを楽しんでいて、
子供達がまわりで遊んでいた光景も思いだします。
それがいつからか塩分が悪者になり、
漬物は片隅に追いやられ始めました。
今では昔のように白い大根が干している家も
町内で何軒もありません。
我が家も姑が亡くなってから大量の漬物を漬けることは無くなりました。
時折簡単な一夜漬けや大根サラダやカブサラダにして食べています。
そうそう、母が苦労して作った漬物が暖冬などで、
すっかり酸っぱくなり失敗してしまったことがありました。
母は大きい樽をウントコショと外に運び出し、
掘っておいた穴に大根の漬物を捨てて埋めました。
それを見た私は母も大根も可哀想と思ってしまいました。