憧れ

先日の夕暮れ、下校途中と思われる高校生ぐらいの男女二人を見かけました。
二人は手を繋ぐこともなく少し距離を取って、
どこか恥ずかしそうに下を向いてゆっくり話しながら歩いていました。
今どきの大胆な高校生とは思えない風景で、
懐かしい昭和を思い出してしまいました。
五十年前の遠い昔、当時の中高生で男女交際をする人はほんの一部の積極的な人か、
美男美女だけだったように思います。
一般の平凡な私達は異性に対するあこがれを持ちながらも
今の人達のように「好きです」と告白して交際するなんて考えられないことでした。
私の友達は好きなクラスの男子のボロボロの真っ黒な上履きズックを、
土曜日の夜ひそかに持ち帰って真っ白に洗い月曜日の朝、
そっと下駄箱に入れておきました。
その男子は登校して玄関で目を白黒させていましたが
ボロさ加減は自分の物だから首をかしげながら履いて教室に行きました。
友達はそれを物陰から見てフッフフと満足気でした。
又、別の友人は、バレンタインデーに街のケーキ屋さんに行き、
お小遣いをはたいてホールのチョコレートケーキを好きな男子の家に届けてもらったそうです。
もちろん一切名乗らないで、その家の親はさぞかし驚いた事でしょう。
ある時、「あの男子といつも目が合うの、きっと私の事好きかも、困ったな」と友達が言ってきました。
やはり男子も同じく好意を持った女子をひそかに見つめていたのでしょう。
“秘めたる思い”と言って、あこがれの異性を遠くから想っているだけで良かったのです。
「恋に恋する」という青春のときめきを今、まぶしく思い出します。
高校三年生の体育祭のフィナーレは恒例の、
全校で踊るオクラホマミキサーのフォークダンスでした。
何百人という生徒が輪になって踊ります。
先生方が何を考えてか何度も練習させてパートナーが変わるスリルを味わわせてくれました。
何度かめに、遂にとなりのクラスの背の高い憧れの君と踊る番が回って来た時、
夢見心地で“時間よ止まれ”と思ったものです。
遠い昔の幼い青春でした。
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