母たちの味
姑は16年前に86歳で、実家の母は
2年前に93歳で、それぞれ召された。
どちらもほとんど認知症になる事もなく、
介護に手がかかる事もなく穏やかに最期を迎えた。
それは本当に私にとっても家族にとってもありがたいことだった。
大正生まれの二人の母たちが作って食卓に載せてくれたものを思い出す。
姑は「じゅねもち」が得意だった。
「じゅね」とは「えごま」のこと。
姑はじゅねの実を畑で育てて収穫する事からはじめる。
それを炒って、すり鉢ですり味噌や
砂糖などで味付けしてタレは出来上がり。
お餅はそば粉や小麦粉を練って丸いおせんべいのような形にして串にさす、
それにじゅねみそをつけて炭火で焼く。
香ばしくてとても美味しい。
子供達も喜んで沢山食べた。
「売っているのよりたっぷりみそつけてるのさ」と姑は得意げで嬉しそうだった。
実家の母の料理で私が好きだったのは「昆布巻き」。
昆布に身欠きニシンをくるくる巻いてかんぴょうで結ぶ。
それを味付けした出し汁でことこと煮る。
昔は冬、ダルマストーブだったから煮物は
そうやってしばらく煮て味をしみ込ませたと思う。
美味しい一品だった。
私の住んでた町はまだ学校給食がなかったから中学、高校までもお弁当だった。
母はせっせと毎日、父と私と弟の三人分のお弁当を作ってくれた。
当時はスーパーのお惣菜やインスタント食品などない時代、
工夫してよく何年も作り続けてくれたと思う。
当たり前のように食べていた手作りお弁当、
思えば、母にお礼を言った事などあっただろうか。
思い出すと涙が出てしまう。
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