ハイネとクロ
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黒猫のクロは今日も、お気に入りの窓から外を見ています。
クロの目線の先には優雅な姿のキジのハイネが、
向こうの空き地の草むらで虫をついばんでいるのです。
太くて立派な首、深いエメラルドグリーンのマントに体を包み、
真っ赤なお面をかぶっているキジのハイネ。
その鮮やかな赤がクロの目には宝石が光っているように見えるのです。
時折、キジのハイネは顔を上げ遠くを見ると「ケーン、ケーン」
と鳴き声をたて羽を誇らしげにバタバタ振ります。
その声は金のラッパのファンファーレのように聞こえ、
クロの耳は震えました。
あぁ、あのハイネが側に来てくれたらその鳴き声を沢山ほめてあげるのに、
とクロは思いました。
わたしは今、野良猫から家猫になって毎日の食事には困らなくなったけど、
もう外を歩くことは出来ないわ、こっそり外に出ようものなら、
ご主人様たちが大騒ぎして探し回りすぐ連れ戻されてしまうの。
貴方はいつも自由に歩き回って楽しそうね、家族は?
「僕はいつも一人さ、あの裏山で育ったけど母さんはもういない、
こうして一人で食べ物をみつけられるから気楽なものさ」
ハイネがそう言ってるようにクロには思えました。
とうとうある日、ご主人様が玄関の戸を開けた隙に
クロはサッと外に飛び出しました。
慌てたご主人様の呼び声を背にあの草むらに走りました。
「ハイネさん!ハイネさん!」
クロは大きな声で呼びかけました。
ところがハイネの耳にはその声は
「ニャー二ャー」としか聞こえなかったのです。
突然現れた黒い固まりに驚いたハイネは、
ろくにクロの顔を見る事なく、
足どりを早めにしながらトットコ、トットコ離れてしまうではありませんか。
「ハイネさん!わたし、会いにきたのよ!」
クロが呼びかけてもキジのハイネは一瞬振り向いただけで
再びトットコ、トットコ行ってしまいました。
キジは上手に飛べないのです。
「そうか、私達はお友達になれないのね」
呆然と見送るクロの耳をやさしい風が吹いていきました。
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