ゴキブリ
私は生まれてこの方ゴキブリを見た事がない。
北国の特権だと思う。
まわりの知り合いも同様にゴキブリを知らない。
関東で暮した娘達は、顔を引きつらせ
口を揃えてゴキブリのグロテスクさを語る。
私が「昆虫に見えないの?」と聞くと、その虫はあやしいほど黒光りして、
憎しみと敵意に満ちた目を向けて突進してくるというのだ。
出来ればこのまま一生ゴキブリ君を見ないで済ませたいと願った。
でも、なんと惨めな名前だろう「ゴキブリ」〜
当地では家のジメジメしたところにいるコオロギのような虫を
「ベンジョコオロギ」と呼んでいるがこれも気の毒な名前だと思う。
魚の「カワハギ」も自分の運命を嘆きたくなる悲惨な名前だ。
もっとも、学問的には立派な名前があるに違いないが。
この夏の始めに当地に多かったのは「カメ虫」だった。
臭いにおいがするので発見すると大騒ぎだった。
もうじき冬が近くなると、白い小さな虫が飛ぶ。
これは「雪虫」と言って季節を感じさせる良い名前だ。
これからやってくる長い冬の足音が聞こえた。
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